SCIENCE AGORA

サイエンスアゴラ2016 開幕・閉幕・キーノートセッション 開催報告

キーノートセッション4
INNOVATION BY DESIGN – 科学とデザイン

■開催概要

前半
Part1

後半
Part2

■登壇者

■紹介したいURL

■企画の意図

KYOTO Design Lab(D-lab)が実施してきた建築・デザインを軸に社会改革を目指した活動について、基本的なコンセプトから、海外トップ大学からのユニット誘致による「医・食・くらし」に関する異分野連携の具体的な取り組みまで紹介します。その上で、登壇者とセッション参加者との意見交換を行い、D-labのこれまでの活動と今後の展開について、セッション参加者との連携やネットワーク構築を見据えた取り組みにつながる議論をして発信していきます。

レポート
日本科学未来館1階の展示ブースでもD-labのさまざまな活動を紹介した

■内容

建築とデザインの視点から課題解決へ

初めに、D-labラボラトリー長を務める小野芳朗教授より、D-labの基本的なコンセプトと事業内容について説明がなされました。
D-labは、京都工芸繊維大学が文部科学省の大学機能強化事業のもとで社会的課題の発見と解決に取り組む、建築学とデザイン学を中心とした中核組織です。伝統を伝える職人たちのネットワークと新しい技術に基づく産業が並び立つ京都を拠点に、「和(あ)える」をコンセプトに、仕切りを取り払いながらさまざまな専門性が交差する革新のためのインキュベーターとなることを目指しています。特に海外から各分野の一線級の研究者を招いて共同研究を行っていることが、D-labの特徴として挙げられます。

レポート
左から小野芳朗 教授、ジュリア・カセム 特任教授、マルセル・ヘルマー デザイン・アソシエイト

研究者とデザイナーのコラボレーションで希少疾病の治療薬開発に貢献

具体的なプロジェクトとして、ジュリア・カセム特任教授が主導し、英国王立芸術学院(RCA)から若手デザイナーを招聘して行うショウジョウバエの研究とデザインのコラボレーションによる新薬開発ためのプロジェクトが紹介されました。
新薬開発は、莫大な時間と費用がかかり、産業界・学界・投資家・司法・マーケティングが相互に絡みあう複雑で非効率なプロセスです。患者数の少ない希少疾病や難病の治療薬開発には大きな商業利益が見込めないため、慈善的な資金源に望みを託すしかないのが現状です。またこうした状況に、疎外感と無力感を抱く患者も少なくありません。
遺伝子異常による末梢神経疾患である「シャルコー・ マリー・トゥース病[CMT]」は、世間ではほとんど知られていません。治療薬開発にあたっては、コストや難しさの理由から、製薬会社からは長きにわたって関心を払われたことのない病気でした。
このプロジェクトは、CMT患者のための家庭用の治療薬スクリーニング(選別・選定)の方法を、研究者とデザイナーの協力により提案するものです。マウスの代わりに疾患モデル・ショウジョウバエを薬剤化合物のテストに用いることで、患者みずからが、自分の病気に関する新薬開発のプロセスに積極的に関わることを可能にします。

国際的な産学連携プロジェクト「ME310」で農薬散布機を試作

本学は、産学連携の分野では、スシ・スズキ特任准教授の主導のもと、アメリカのスタンフォード大学の国際的な産学連携プログラム「ME310/SUGAR」に参加しています。その4度目の参加となる2015年度は、ヤンマー株式会社と凸版印刷株式会社から研究テーマと資金の提供を受け、本学とスタンフォード大学、スインバーン工科大学(オーストラリア)の持っている機械と情報を使い、また各校のデザインを専攻する学生たちが、国境を越えて製品開発に取り組みました。セッションでは、そのプロジェクトが紹介されました。
ヤンマー株式会社の協力を得て製作したのは、ワインの原料であるぶどう栽培における効率的な農薬散布を実現するための農薬散布機のプロトタイプでした。より安全に、かつ効率的に農薬を散布するための新しい薬剤噴霧システムです。ぶどうの木を薬剤噴霧ユニットで覆い、農薬を噴霧します。内部に設けた送風システムがエアカーテンを構成し、噴霧ユニット内に農薬を閉じ込めることで大気中への拡散を防ぎます。同時にユニット内の余分な農薬を吸い込んで噴霧に再利用することで、使用する農薬の総量を大幅な削減を可能にします。また、農薬の噴霧量や作業プロセスをGPSによる位置情報とともに管理するソフトウェアを開発し、これまで勘や経験に頼っていた農薬散布のプロセスを最適化します。

「食」をテーマに都市のあり方を考える

建築の分野では、三宅拓也助教が行う「食」を通じた都市リサーチが紹介されました。都市の新陳代謝、つまりエネルギーや水、食品、製品、土壌、廃棄物などの循環は、それらを支えるインフラストラクチュアを通じて都市の姿を表象しています。D-labとスイス連邦工科大学スタジオバーゼルの共同研究として始まったこのリサーチプロジェクトでは、京都の錦市場を舞台に、日々の生活に欠かせない「食」の流通から京都という都市を理解し、将来の提言につなげるための調査を進めています。

まとめ

「イノベーションの実現ために、なぜデザインの力が必要なのか」という会場からの質問に対し、ジュリア・カセム特任教授は、「もちろんデザイナーは形をつくる専門家でもあるけれど、さまざまな専門家とコラボレーションする専門家でもある。つまりはコミュニケーションの専門家なので、イノベーションにデザインの力が活かせるのです」と答えました。
デザインになじみのない人にとっては、デザイナーはモノの外側の意匠を考案する人という印象が根強いようです。そのような人にも分かるような形で「デザイン」という言葉を発信し、相互理解を深めていく必要があるということが、今回のセッションを通じて見えてきたといえるかもしれません。

文責:和田隆介(主催者/京都工芸繊維大学特任専門職員)

開幕セッション・キーノートセッション一覧

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