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自動走行技術が創る未来社会

■開催概要/Session Information

■登壇者/Presenters

■レポート/Session Report

自動走行システム開発の最前線に迫る

自動走行車とは、その名前のとおり人間の運転なしで走行する自動車のこと。最近では運転支援技術を備えた車が実際に公道を走り始めたりもしていますが、完全な自動走行車はまだ実現していません。自動走行車と社会のあり方に関連して、現状と今後の展望について議論が交わされました。
レポート

本セッションではSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)自動走行プログラムディレクターの渡邉浩之氏がファシリテーターを務めました。渡邉氏は自動走行・自動運転に対する注目度が高まっているが、一般市民には自動走行とはどんな技術なのか、どれくらい進歩しているのかがあまり知られていないと指摘。「実は街を走っている車にも搭載されている」と、発展の一例を挙げ、登壇者の講演につなぎました。

自動走行技術の役割

「自動走行技術とは人間が行っている仕事を機械が一部補助すること。そして、自動運転によって交通事故を減らすことができる」と語るのは、日産自動車の福島正夫氏。人間は運転の際に、知覚・認知・判断・操作という仕事をしています。「信号の色が赤だ」と知覚・認知し、止まるという判断をして、ブレーキをかけるという操作を行っているのです。ここでなぜこの仕事の一部を自動にするかというと、交通事故の原因のほとんどはヒューマンエラーだといわれているからです。福島氏は「機械によって補助することで人間の寄与を減らし、交通事故を減らすことができる」と、自動走行技術の役割を説きました。

本田技研研究所に所属し、日本自動車工業会の自動運転検討会主査でもある横山利夫氏は、大きな視点での自動走行技術の役割を説明しました。横山氏は、「日本自動車工業会は『世界で最も安全、効率的で、自由なモビリティー社会の実現』を目標として掲げている」こと、そして「車が進化することによって人や社会を変え、支えていく」と述べ、自動走行技術によって社会問題を解決していく姿勢を示しました。

現在日本には、大都市とその周辺部などの過密環境における事故や渋滞、車利用の不安と不便といった問題が存在する一方で、地方においては高齢化、人口減少社会で移動手段が減少し、利便性は低下しています。また、運搬従事者の高齢化、輸送物の小口化、多頻度化に対応できていない現状もあるといいます。これらに対して「事故・渋滞ゼロという方向性では運転支援技術の進化によって、自由な移動や効率的な物流という方向性では、長距離移動の負荷軽減、省力化など運転操作の自動化を含めた技術進化で応えていく」と横山氏。自動走行技術が、まさに現代日本の抱える問題を解消してくれる技術であることを語りました。

続いて、自動車ジャーナリストの岩貞るみこ氏は「自動走行が実現すれば車の中で色々なことができるようになるかもしれません。例えばトランペットの練習をしたり、運転に気をとられずに子供の面倒を見たりといったことです」と、技術者とは違うユーザー目線からの話を展開。自動走行による、2次的なメリットを紹介しました。

自動走行技術の始まり

近年注目されている自動走行技術の発端について、トヨタ自動車に所属し、SIPの自動走行車関連のプログラムディレクター代理でもある葛巻清吾氏は「最近の国際的な自動運転の流行の発端は、2004年の国防高等研究計画局 (DARPA) のグランド・チャレンジ(無人自動車によるレース)であった」「このときに周囲を認識する技術が大きく向上し、現在の自動走行技術につながっている」と説明しました。DARPAは国防のためにこのコンテストを行い、Googleなどがここで活躍した優秀な技術者を雇い入れて自動運転の研究を行っています。一方、日本でも1990年代から自動走行技術の研究は行われており、2005年の愛知万博で無人の自動運転車を披露するなど以前から関心が高かったことが分かります。

自動走行技術の現状と未来

「現状では自動走行は完全には実現していませんが、その基礎や補助となる技術はいくつか実現している」と、福島氏。

福島氏は「ACC(Adaptive Cruise Control)」について動画を交えて解説しました。ACCは日本語では「定速走行・車間距離制御装置」といい、前の車との車間距離を計測して速度を一定に保つ機能のこと。ACCは高速道路や自動車専用道路における、複数のトラックの隊列走行などに応用される見込みだといいます。ACCを応用した複数車両の隊列走行が実現すれば、先頭の一車両だけ運転すればよくなるので、運転手の負担軽減が期待できるとのことです。

こういった技術は、完全な自動走行車の完成にどれくらい近付いているのでしょうか。福島氏は「一口に自動走行システムといっても、自動走行には大きくわけて4つの段階がある」と言います。自動ブレーキなどは、加速(アクセル)・操舵(ハンドル)・制動(ブレーキ) のうちの一つを、ある限られた時間内で自動車が行うレベル1の状態にあります。レベル2は加速・操舵・制動の複数を自動車が同時に行う状態、レベル3はそれら全てを自動車が行い、緊急時のみドライバーが対応する状態。そしてレベル4はドライバーが全く関与しない状態です。

福島氏は「国家的にはレベル1にある現状を、2020年代前半にはレベル3に押し上げ、同年代後半にはレベル4を実現することが目標」だと展望を語りました。

自動走行技術の課題

「自動走行車には大きく分けて2つの機能が求められます。一つは車がきちんと道を認識し正確に動くということ。もう一つは歩行車やほかの自動車などがいる中で適切に動くこと」と岩貞氏。この2つを実証実験の中で磨いていくことが求められています。メルセデス・ベンツでは心理学者やAIの専門家たちが重用されていることを紹介し、「技術者だけではなく、さまざまな分野の協力が必要」と説きました。特に、従来は人間が目線や手の動きで行っていた、道路上でのコミュニケーションを自動走行車もスムーズにこなすことが社会に受容されるためには重要だといいます。

また、葛巻氏もSIPプログラムディレクター代理という立場から「自動運転を研究レベルで実現するだけなら各社単独でもできるが、それを一般の交通ルールの中で運用していくとなると課題が多い」と指摘。事故が起きた際の責任の問題、地図データの整備の問題、自動走行車と人間のコミュニケーションの問題などは各社だけでは解決できない問題だといいます。技術開発に関しては会社同士の切磋琢磨、そして実際の社会の中での運用においては各社の連携や国の統括、競争と協調が必要であることを説きました。

さらに、こういった技術のハードルより高いものとして、社会・法律のハードルの存在があります。岩貞氏は「自動走行車が事故を起こした際に誰が責任を負うのか、怪我をしてしまった場合にはどのような処遇を受けるのか」という不安が市民の中にあると指摘。社会や法律のハードルを乗り越えていくのは技術者だけでは難しく、ユーザーとなる一般市民が声を上げることの重要性を説きました。

最後に「自動走行技術にはハードルも多いが、必ず乗り越えて実現されるだろう」という岩貞氏の力強い言葉によって講演は締めくくられました。

その後、会場の聴衆者たちとの質疑応答の時間が設けられました。「自動走行車がインターネットにつながるようになると、セキュリティーの問題が発生するのではないか」という質問に対して、葛巻氏は「車は今までそのような問題が生じていなかったため、銀行など、ほかの事例を参考に議論を始めている。人命を乗せる物であるので大変重要なポイントである」とコメント。現状ではまだ具体的な対策案が形になってはいないものの、重視すべき問題と認識していることを明らかにしました。また、自動運転は目的でもあるが手段でもあり、全盲の人への補助や盲導犬の代替といった応用も可能であると述べ、自動走行技術の発展の可能性を示唆しました。

【レポーターからのひとこと】

講演者の方々のお話で、自動走行技術は官民連携によって目覚ましい発展を遂げており、日本の諸問題を解決する可能性を秘めているものの、そのためには乗り越えなくてはならないハードルがいくつもあることが分かりました。(佐野悠樹)

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